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ブタペスト国立工芸美術館陶磁器名品展 ジャポニスムからアール・ヌーヴォーへ

「ブタペスト国立工芸美術館陶磁器名品展 ジャポニスムからアール・ヌーヴォーへ」展がパナソニック留美術館で2021年10月9日―12月19日にかけて開催されました。すでに、福島、石川、山口で開催されました。

ジャポニスムは、19世紀後半から20世紀にかけて各地域、各国で流行しましたが、当然その地域/国の土壌、文脈が取捨選択・加味されての「日本」ということになります。それゆえ、その流行が顕著にあらわれた分野も様々でした。例えば、工芸品やテキスタイルにあらわれたイギリス、ドイツ、オーストリア、絵画や音楽に現れたフランス、小説や建築にあらわれたアメリカ合衆国などです。もちろん各国においてここにあげた以外でもジャポニスムは見られますし、演劇、オペラ、庭園などについては近年研究が充実してきています。

ハンガリーにおけるジャポニスムは、ハンガリー在住の研究者により近年研究がすすみ、ハンガリーですでにジャポニスムに関する展覧会が開催されています。

今回の展覧会に冠されているブタペスト国立工芸美術館は、1896年10月25日、ハンガリー建国千年祭の一連の祝賀行事の一環として建設、開館を迎えました。ハンガリー建国千年祭とは、マジャル人がカルパチア盆地に定住して千年を記念する行事として1896年5月2日から11月3日までブタペストで開催された博覧会です。当初は万国博覧会での開催が検討されていましたが、最終的には国際的な万博よりも、ハンガリーの歴史や文化に関する展示が主な内国博覧会となりました。とはいえこの博覧会を契機として、公共機関の建設、都市開発がおこなわれました。例えば、ブダとペシュトを渡すフランツ・ヨーゼフ橋が開通、ロンドン、イスタンブールについで世界で3番目に古く、電気運転としては世界初となる地下鉄が開通しました。地下鉄は博覧会の開会に合わせて5月2日に完成しました。

 

そもそも、工芸美術館とは、最初の万博である1851年第1回ロンドン万国博覧会の閉会後、自国の産業振興を目的として、万博展示品の収蔵、展示、教育を目的としたサウス・ケンジントン博物館(現在のヴィクトリア&アルバート博物館)が建てられました。その後、ウィーンにオーストリア藝術産業博物館(現在のオーストリア応用藝術博物館)、ベルリンにドイツ産業博物館が建てられました。ブタペスト国立工芸美術館もその一環で1872年に創設されました。その美術館が所蔵品の増加により新しい建物として新設された美しい建物が現在まで残っています。

日本関連のコレクションの中心は陶磁器陶磁器と当時のジャポニスムハンガリージャポニスムについてはまた、別の記事とします。

 

 

【参考文献】

井口壽乃「帝都ブタペシュトの世紀末ー1896年ハンガリー建国千年記念博覧会にみるナショナル・アイデンティティー」

天野義教「ウィーンのオーストリア応用美術博物館」

(以上2稿は池田祐子編『ウィーンー総合芸術に宿る夢』〈西洋近代の年と芸術4〉(竹林舎、2016年)所収。

 

水野貴博「1896年ブタペスト建国千年祭博覧会の会場計画について」(『日本建築学会計画系論文集』第75巻、第654号、2010年8月、2029-2037頁。

池田祐子「ベルリン工芸博物館と日本:東アジア美術館設立をめぐって (国際言語文化研究所 研究所重点プログラム「風景・空間の表象,記憶,歴史」 2019年5月25日開催ドイツ・モダニズムの黎明期とベルリン)Kunstgewerbemuseum Berlin and Japan : Related to the Foundation of the Museum fiir Ostasiatische Kunst(立命館大学国際言語文化研究所『立命館言語文化研究』31(4)、2020年3月、137-149頁。)